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研究シーズの未来をともに担うCxO人材をめぐる対話
― 「成功か、失敗か。スタートアップと大企業、キャリアの分岐点を『実体験』で語る」開催レポート ―
2月19日、大阪梅田・HOOPS LINK KANSAIにて、SEEDS LINK OSAKA・KANSAI主催、三井住友銀行共催のイベント「成功か、失敗か。スタートアップと大企業、キャリアの分岐点を『実体験』で語る」を開催しました。
本イベントの目的は、単なるキャリア論ではありません。目指すのは、研究シーズの社会実装を担うCxO人材の発掘と創出、そして研究シーズとの接続です。
研究成果を社会に届けるには、技術だけではなく、事業設計、組織づくり、資本戦略、市場接続の視点が必要です。
その担い手となる人材との接点を広げることが、今回の企画の背景にありました。
登壇者紹介

寺口 浩大 氏
株式会社ワンキャリア Evangelist
兵庫県生まれ。京都大学工学部卒業。リーマンショック直後、三井住友銀行に入行。企業再生、M&A関連の業務に従事したのち、デロイトで人材育成支援に携わる。現在、ワンキャリアでEvangelistとして活動。専門はPublic Relations。現在は、採用をテーマにした経営者・人事向けのビジネスカンファレンス「採用ウルトラキャンプ」の企画をメインに活動中。― ワンキャリア 寺口氏 基調講演 ―

宮島 勇也 氏
株式会社Magic Shields 最高技術責任者CTO
2016年に生産技術者としてパナソニックに転職するも、出る杭として挫折を経験。従順な部下を演じきれず「趣味でイノベーションします」と宣言し、社内外で新規事業提案や課題解決型コミュニティを多数立ち上げ、宇宙事業開発まで展開。社内コンサルタントとして研究開発・新規事業を支援。2025年4月よりスタートアップ「マジックシールズ」CTOとして、高齢者の転倒骨折を防ぐ「ころやわ」を世界に広める挑戦を続けている。

柳澤 斐子 氏
株式会社才流 シニアコンサルタント
2014年川崎重工に入社しロボット事業部で経理・営業企画を経験。2019年楽天グループへ転職し、大手ナショナルクライアントに対し楽天のビッグデータを活用したデジタルマーケティングを支援。2021年、ソニーと川崎重工のJVリモートロボティクスの設立から参画し、マーケティング、広報、営業、パートナー開拓など幅広く担当。2025年8月より才流にてコンサルタントとしてBtoBマーケティングや新規事業支援に従事。
第1部:キャリアは「資産運用」である ― ワンキャリア 寺口氏 基調講演 ―
第1部では、ワンキャリアの寺口氏が登壇。「大企業かスタートアップか」という単純な比較ではなく、キャリアを構造的に捉える視点が提示されました。

<市場価値を構造的に整理し、CxOに求められる判断力の重要性を語る寺口氏。>
二項対立では、本質は見えない
「大企業は安定、スタートアップは成長」
「大企業は遅い、スタートアップは速い」
こうした一般論は語られがちですが、寺口氏はまずそれを分解しました。
重要なのは企業規模ではなく、
- 業界の構造
- 企業のフェーズ
- 自身が担う役割
この3点によって経験の質は大きく変わる、という整理です。
市場価値の構造
提示されたフレームは、
市場価値 = 業界の生産性 ×(技術資産+人的資産)
という式でした。
1. 業界の生産性
どれだけ優秀でも、業界構造によって年収や評価水準は左右される。
「個人の努力」だけではなく「構造を読む力」が必要。
2. 技術資産
専門スキルだけでなく、
交渉力、場の設計力、意思決定支援能力など、形式化されにくいスキルも含まれる。
3. 人的資産
「一緒に働きたいと思われるか」。
AIが進展するほど、この要素の重要性は増していく。
特に会場の反応が大きかったのは、「AI時代には“できる人”より“判断できる人”が価値を持つ」という指摘でした。
これはまさに、CxOに求められる資質です。情報を統合し、不確実な状況下で意思決定する力。その力は、キャリア設計の中で意識的に育てることができるというメッセージが示されました。

<「市場価値=業界の生産性×(技術資産+人的資産)」というフレームをもとに、キャリア設計の視座が示されました。>
「買う転職」という考え方
年収が下がる転職=失敗、ではない。成長環境を“買う”という選択肢もある。
短期的な年収だけでなく、将来的にどの資産が増えるかという視点で判断すること。この整理は、研究シーズと向き合うCxO候補層にとっても重要な示唆となりました。
第2部:分岐点のリアル
― 大企業とスタートアップを経験した実践者、宮島氏、柳沢氏の対話 ―
第2部では、大企業とスタートアップ双方を経験した登壇者によるパネルディスカッションが行われました。

<宮島氏、柳澤氏をむかえたパネルディスカッション。大企業とスタートアップ双方の経験から、分岐点のリアルが語られました。>
意思決定のスピードと責任
大企業では、稟議や合意形成が必要であり、意思決定は多層的な調整を伴います。一方スタートアップでは、決断は速く、役割は広く、責任は明確です。「誰も拾わない“三遊間”を自分で拾う経験が増える」という言葉が象徴的でした。
これはCxOに不可欠な視点です。組織の隙間を見つけ、構造的課題を捉え、動かす。実践者のリアルが語られました。

<意思決定のスピード、責任の所在、経験の密度——。実践者ならではの具体的な議論が続きました。>
経験の密度
スタートアップでは、専門外の領域、財務、採用、営業、プロダクト設計にも踏み込む機会が多く。結果として、経験の密度が高まると語られました。
一方で大企業には、
- ブランド
- 資本力
- 既存ネットワーク
といった強力なアセットがあります。
重要なのは優劣ではなく、 どの環境でどの視座を獲得するかという選択だと示唆されました。
情報構造と判断力
組織規模が大きくなるほど、一次情報は遅れ、加工されます。一方、スタートアップでは情報は速いですが、ノイズも多く、どちらの環境でも「情報を構造化し、判断する力」が求められます。
この点は、研究シーズを事業へ転換するプロセスとも共通しています。
技術の価値を見抜き、適切な市場に接続するには、統合的な視点が必要です。
交流会(名刺交換会)で生まれた“可能性”
セッション終了後には交流会(名刺交換会)を実施しました。
参加者同士の対話では、
- 社内新規事業のリアル
- 副業や越境経験
- 技術と経営の橋渡し役の在り方
- 将来的なスタートアップ参画の可能性
など、より具体的なテーマが議論されました。
SEEDS LINKにとって重要なのは、ここで生まれた“将来的な接点”です。
研究シーズの社会実装においては、 CTO、CBO、COOなど、事業を推進できるCxO人材の存在が成功確率を大きく左右します。今回のイベントは、その候補層との出会いの場となりました。

<トークで得た視座をもとに、参加者同士の対話が広がる交流会となりました。>

<研究シーズの社会実装は、人と人との接点から始まります。交流会は、その第一歩となる時間でした。>

<登壇者を囲み、意思決定や事業推進のリアルについてさらに深い議論が続きました。>
SEEDS LINKが目指すもの
SEEDS LINK OSAKA・KANSAIは、研究者のためのワンストップ窓口です。
しかし、研究者支援だけでは不十分です。
技術と事業をつなぐCxO人材の発掘と創出があってこそ、社会実装は前進します。
今回のイベントは、その第一歩でした。
研究者とCxO人材が出会い、対話し、共創が始まります。
