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NEDO NEPをどう活用するか|研究シーズ事業化の「制度理解」と「現場のリアル」
― 「2026年度 NEDO NEP「開拓/躍進」制度解説セミナー」オンラインセミナー開催レポート ―

1月29日、SEEDS LINK OSAKA KANSAIでは、研究シーズの事業化を検討する研究者を対象に、オンラインセミナーを開催しました。
本セミナーは二部構成で実施され、第1部では新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)スタートアップ支援部NEPチームより講師を迎えた制度紹介セミナー、第2部ではNEP「開拓コース」採択者とのトークセッションが行われました。
制度の概要を学ぶだけでなく、実践者の経験を通じて「自分の研究をどう整理すべきか」を考える時間となりました。
登壇者紹介

森 亮太 氏
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
スタートアップ支援部 NEPチーム
2024年4月よりNEDO Entrepreneurs Program(NEP)事業に従事。
主に開拓コースの運営を担当し、公募対応、イベント・研修等の企画運営、事業者及び支援者との各種調整等を行う。各地のピッチイベントとNEP事業との連携のほか、NEDO・川崎市・川崎市産業振興財団の3者連携によって運営されている起業家支援拠点であるKawasaki-NEDO Innovation Center(K-NIC)も担当。

菊池 拓仁 氏
熊本大学大学院 博士後期課程
熊本大学大学院自然科学研究科(修士)後、自動車メーカーにて物流分野のデータサイエンスに従事。
退職後、熊本大学大学院博士後期課程に現在在籍。農業被害の大きいジャンボタニシの誘引・防除技術の研究開発に注力している。ビジネスプランコンテストでは18タイトルを獲得し、NEP開拓コースや、九州・沖縄の大学発スタートアップ創出プラットフォーム「PARKS」GAPファンドに採択。研究と事業の両輪で社会課題解決に挑戦している。
第1部:NEP制度紹介セミナー - 制度を「知る」だけでは足りない理由 -

<NEP(NEDO Entrepreneurs Program)の制度概要。大学等の研究成果を基にした事業化支援の枠組みが紹介された。>
第1部では、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)スタートアップ支援部NEPチームより、NEDOの役割とNEP制度の概要について説明がありました。
冒頭では、NEDOのミッションとして、エネルギー問題や地球環境問題への対応、そして産業技術力の強化が挙げられました。NEDOはこれらの課題に対して研究開発支援を行う機関であり、その取り組みの一環としてスタートアップ支援も位置づけられていることが説明されました。
NEP(NEDO Entrepreneurs Program)は、大学などで生まれた研究成果を基に、事業化を目指す研究者や第三者の技術シーズを利用して起業を目指すものを支援するプログラムです。制度の目的や背景、対象者、支援の枠組みについて順を追って紹介がありました。研究者が自身の研究成果をもとに起業や事業化を検討する初期段階を支える制度であることが示されました。
説明では、NEPが単なる研究費助成とは異なる位置づけであることが明確にされました。研究そのものを深化させるための支援ではなく、研究成果を社会へ展開する可能性を見据えた取り組みを支援する制度であることが共有されました。
NEPの本質は“仮説検証期間”

<期間中に想定される取り組み内容。市場確認や事業構想の整理など、具体的なプログラムが紹介された。>
制度紹介の中では、NEPの期間中に取り組む内容についても具体的に触れられました。事業計画の整理や市場調査や現場のニーズやペインを把握するためのヒアリングなど、研究成果を社会実装へとつなげるための活動が想定されていることが説明されました。
研究として成立している成果であっても、それがどのように社会の中で活用されるのかは、改めて検討する必要があります。NEPは、そうした検討を進めるための期間であるという位置づけが示されました。
また、コースごとの特徴についても紹介がありました。特に開拓コースについては、「人物を重視する」という考え方が説明されました。現時点で事業計画が完成していることよりも、研究成果を基に事業化へ挑戦しようとする意思や姿勢に着目する制度であることが共有されました。

<開拓コースの特徴として説明された「人物重視」の考え方。研究者本人の姿勢や意思が重要となる。>
これは、これから事業構想を具体化していく段階の研究者なども対象となることを意味しています。研究成果を持ちながらも、事業化に向けてどこから手をつけるべきか迷っている研究者などにとっても、検討の機会となり得る制度であることが説明されました。
審査で問われるのは技術力だけではない
制度説明の中では、NEPが研究成果そのものだけでなく、その先の展開を見据えた取り組みを支援する制度であることが改めて示されました。研究の技術的内容に加え、それをどのように社会へ展開していくのかという視点が必要になることが共有されました。
特に開拓コースでは、事業計画の完成度を前提とするのではなく、挑戦する人物の意欲や将来性を重視するという特徴が説明されました。これは、制度が「完成された事業」を選ぶための枠組みではなく、「これから事業化に取り組もうとする研究者など」を支援する制度であることを示しています。
第1部は、NEP制度の背景、目的、支援内容、そして開拓コースの考え方を理解する時間となりました。制度の仕組みを把握するだけでなく、自身の研究成果をどのような位置づけで捉えるべきかを考える機会でもありました。
第2部|開拓コース採択者とのトークセッション - 実際に挑戦して見えたもの -

<NEP開拓コース採択者とのトークセッション。応募の経緯や制度活用の実体験が共有された。>
第2部では、NEP開拓コース採択者を迎え、応募前後の取り組みや検証の過程について率直な対話が行われました。制度の説明だけでは見えない、実際の迷いや試行錯誤が共有され、研究者がどのように事業化と向き合っていくのかが具体的に語られました。
印象的だった3つの学び
トークセッションを通じて、特に印象に残った学びが三つありました。
1|最初から完璧な計画はなかった
採択者も当初から明確な事業計画を描いていたわけではなく、仮説を立てては修正するというプロセスを重ねてきたと語りました。市場との対話や顧客ヒアリングを通じて事業像が磨かれていったという経験は、構想段階にいる研究者にとって大きな安心材料となりました。
2|研究者一人では限界がある
研究の専門性は強みである一方で、事業化の過程では多様な視点が必要になります。事業側の人材や外部メンターとの出会いが転機になったという話からは、外部との接続がいかに重要かが伝わりました。研究者がすべてを抱え込むのではなく、適切なパートナーを見つけることが前進の鍵となります。
<NEP期間中に受けたメンターからのアドバイスについて語る場面。事業化を進める上で、外部の視点が重要であることが共有された。>
3|起業はゴールではなかった
採択者は、研究成果を社会に届ける方法として起業に取り組んだ経緯を語りました。NEPの期間を通じて事業化の方向性を具体化していったプロセスが共有されました。
その一方で、事業化に取り組む以上は「覚悟と責任を持ってチャレンジする必要がある」という話もありました。NEPの支援資金は公的資金であり、税金を原資としていることから、その重みを意識することが大切だという点が率直に語られました。
制度に支えられる立場であると同時に、社会に対して説明責任を負う立場でもある。その自覚を持って挑戦することが求められるというメッセージが印象に残る内容でした。
まとめ
本セミナーでは、第1部でNEP制度の概要や各コースの特徴が説明され、第2部では開拓コース採択者の実体験が共有されました。
制度の位置づけや支援内容を理解するとともに、実際に挑戦した研究者の経験を通して、研究成果を社会へ展開することの現実や、その過程で求められる姿勢についても具体的に語られました。
特に、開拓コースにおける人物重視の考え方とあわせて、公的資金を活用する責任についての言及は、制度の意義をより立体的に示す内容でした。
SEEDS LINK OSAKA KANSAIでは、NEPを含む公的支援制度の活用に関する情報提供や相談対応を行っています。制度の内容を知りたい方や、事業化を検討している方は、ぜひご相談ください。
関西の研究力を社会へつなぐ、新しい広域ハブ -SEEDS LINK OSAKA KANSAIのミッションとその背景-
関西には、世界に誇れる研究シーズが数多く存在しています。
しかし、その多くが十分に社会実装へとつながっていないのが現状です。
大学に眠る研究力を可視化し、社会と結びつける。
その役割を担う広域ハブとして立ち上がったのが SEEDS LINK OSAKA KANSAIです。

本インタビューでは、その立ち上げ背景とミッションについて、大阪府 是洞(これとう)様に話を伺いました。

Q1:SEEDS LINKを立ち上げるに至った背景や問題意識について教えてください。
はい。 大阪は京都や神戸とともに関西のスタートアップエコシステムを構築しています。
国からスタートアップエコシステム拠点都市としての指定を受け、2025年現在で6年ほど活動しています。
その中では、国内有数の大学が関西に多いという強みをしっかり生かし、ディープテップの世界的な拠点を作っていこうという方針を掲げています。
こうした動きの中で、関西の大学の研究数の多さを、まだ十分に引き出しきれていないという課題意識がありました。
近年、有力なスタートアップは確かに生まれていますが、それは大学に眠る研究シーズのごく一部に過ぎません。
実際には、事業化や社会実装につながる可能性を持った研究シーズが、まだ数多く存在しているにもかかわらず、十分に発掘・活用されていないのが現状です。
だからこそ、大学に蓄積された研究シーズを可視化し、外部とつなぎ、次の価値創出へと導く、それを後押しする取り組みが必要だと考えるようになりました。
これがSEEDS LINK 関西が生まれた背景です。

Q2:大学には多くの研究シーズがありながら、なぜ事業化まで進むケースが限られているのでしょうか?
近年を振り返ってみても、ノーベル賞受賞者が偶然にも関西から2名誕生するなど、この地域には世界に誇れる研究成果が確実に存在しています。
これは一時的な成果ではなく、長年にわたり有力な研究シーズが蓄積されてきた結果だと感じています。
国もその価値を認識し、大型研究プロジェクトへの投資や大阪・関西万博などを通じて、多くの研究者・技術者が活躍してきました。
一方で、実際に大学関係者の方々とお話をする中で、「スタートアップを目指す」「事業家になる」という選択肢を本気で選ぶ研究者は、やはり本当に一握りだという認識が強くなりました。
多くの研究者は研究や社会実装に関心を持ちながらも、自ら起業家として踏み出すことは容易ではないと考えています。
これは個人の能力の問題ではなく、研究者という立場・役割上、自然と生まれてしまう構造的な課題です。
だからこそ、研究者が研究に集中しながらも、無理なく事業化・社会実装につながっていく仕組みが、今まさに求められています。

Q3:研究シーズの事業化を進める上で、大学の仕組みや体制にはどのような課題があると感じていますか?
多くの大学には産学連携本部が設置されていますが、大学内でどのような研究や取り組みが進んでいるのかは、学外からは見えにくいのが実情です。
一方で大学側には、企業との共同研究やスタートアップ創出に、より積極的に取り組みたいという意識があります。
特に近年は、国がスタートアップ支援に力を入れ、予算もついていることから、研究成果を事業へとつなげたいという機運は確実に高まっています。
実際、大阪大学や京都大学では、大型ファンドの設立を背景に、ファンドの運用から起業支援までを含めた体制が整っています。
ただ、こうした体制を安定的に持つ大学はごく一部に限られており、多くの大学では安定した支援体制の基で研究の事業化を進めることは難しいのが現状です。
その背景には、ノウハウを持つ担当者が人事異動で現場を離れてしまうことや、限られた人数で運営せざるを得ないといった構造的な制約があります。

こうした環境の中で、大学単体で研究シーズを継続的に発掘・育成し、事業化まで導くことには限界があります。
これは、さまざまな大学関係者の方々にヒアリングを重ねる中で、共通して見えてきた認識です。
Q4:大阪府単体での施策ではなく、関西全体での取り組みを選択された理由について、お伺いできますでしょうか?
冒頭でも申し上げた通り、「関西全体でスタートアップ・エコシステムを形成していこう」という考えがあります。
スタートアップのエコシステムというものは、大学や行政だけで完結するものではありません。
大学が果たす役割にはどうしても一時的・限定的な側面がありますし、行政も含めて、民間や外部の主体が積極的に関与してこそ機能するものだと考えています。
今回の取り組みにおいても、大阪府が関わっていますが、決して「大阪府と大学だけ」で成り立つものではなく、民間の活動や外部のプレイヤーをどんどん取り入れていくことが不可欠だと思っています。エコシステムとは、そうした多様な主体の循環を前提とした考え方だと捉えています。
その中で、大阪だけで魅力を訴求することには、限界があると感じました。
関西には、多くの魅力的な大学研究機関があります。ですので関西全体としてのポテンシャルを対外的に示す方が、有効であろうと思っています。
また、今回構築しようとしている「相談窓口」や支援体制についても、課題自体は大阪特有のものではなく、全国の大学・地域に共通する構造的な課題です。それならば、大阪だけで閉じた仕組みを作るよりも、京阪神を中心にスクラムを組み、広域で取り組む方が効果的だと判断したのです。
さらに、ニーズ自体も大阪府内に限らず、関西全体、さらには他地域にも存在しているという点も大きな理由です。

Q5:関西以外の地域にも同様の課題がある中で、関西で成功事例ができた場合、他府県や他地域との連携も想定されていますか?
はい。万博で行われていたGSEを契機に、グローバルイベントを継続的に実施していきたいと考えています。
これは大阪や関西企業のPRの場というよりも、国全体を代表するイベントを目指すものです。
そのため、関西の大学や企業だけでなく、東北大学など他地域の有力大学や研究成果が発信される場にもなり得ると考えています。
そうした全国的な動きと関西の取り組みがうまく接続されることで、より大きな広がりと相乗効果が生まれるのではないかと思っています。
Q6:SEEDS LINK 関西が目指しているミッションや役割を、一言で表すとどのようなものだとお考えでしょうか?
SEEDS LINK 関西が担う役割を一言で表すと、「エコシステムにおける最初の入り口」だと考えています。
大学には優れた研究シーズが数多く存在する一方で、事業化に至る手前で止まってしまっているケースが非常に多いのが現状です。
体制面の課題に加え、研究者自身が起業や事業化を前提としていないことも、その背景にあります。
だからこそSEEDS LINK 関西は、研究者が本当に取り組みたい研究と、事業化・社会実装という選択肢を自然につなげていく。
その最初の接点を担う存在でありたいと考えています。
Q7:その取り組みの対象となるのは、すでに事業化を意識している研究者だけでなく、まだ動いていない研究者も対象としているのでしょうか?
はい。その理解で問題ありません。実際に、事業家になりたい、あるいはスタートアップに挑戦したいと明確に考えている研究者は、全体の中でも本当にごく一部であると感じています。
そうした方々は、すでに何らかの支援制度を活用し、自ら動き出しているケースが多いです。
一方で、圧倒的に多いのは、まだ何もアクションを起こしていない研究者層です。
SEEDS LINK 関西として本当に向き合うべき対象は、まさにこの層だと考えています。
重要なのは、「起業しましょう」と促すことではなく、研究者が本来取り組みたい研究と、事業化・社会実装をどう結びつけるかという視点です。
これまで動いてこなかった層の意識や行動を少しずつ動かしていく。そのきっかけをつくることが、SEEDS LINK 関西の役割だと考えています。
Q8: 起業以外にも企業との共同研究など、さまざまな関わり方を提示しているのでしょうか?
はい。必ずしも起業だけがゴールだとは考えていません。
研究者・企業・第三者が関わる連携など、研究成果の特性に応じて最適な関わり方を選べることが重要と考えています。
そのため私たちは、できるだけ早い段階から関わることを大切にしています。すでに事業化が見えているテーマだけでなく、「この着想は面白い」「この視点には可能性がある」といった初期のアイデアの中にも、事業化につながる芽が眠っているからです。
各大学ですでに整理されているシーズに加え、まだシーズとして言語化されていない研究についても、ビジネスの視点で捉え直し、分かりやすく伝えていく。
それもSEEDS LINK 関西の重要な役割だと考えています。
Q9:まだシーズだと自覚していない研究者には、どのように伴走していくのでしょうか?
研究者の方が迷わず相談でき、前に進むための“地図”を用意することが重要だと考えています。
多くの研究者は、起業や事業化そのものを目的としているわけではなく、純粋に研究を深めたい、あるいは研究費を確保したいという思いを持っています。
だからこそ、「事業化ありき」で話を進めるのではなく、まずは先生が何をやりたいのか、どこに関心があるのかに目線を合わせることを大切にしています。
その上で重要になるのが、研究の価値を言語化です。研究者ご本人にとって当たり前の気づきや面白さを、外部の視点で整理し、ビジネスや社会に伝わる言葉に翻訳していく。そのプロセスを伴走しながら支えることが、SEEDS LINK 関西の役割だと考えています。

Q10:研究者の方と接する際に、特に大切にされている姿勢や心がけは他にもありますか?
やはり、最初からビジネスにつながる話や、短期的な成果を求めすぎないことはとても大切だと思っています。
研究の内容によって時間軸は本当にさまざまで、研究の世界では必ずしも早い成果が最適とは限りません。
だからこそ、研究の時間軸や研究者のスタンスを尊重し、無理に急がせることなく寄り添いながら関係を築いていく姿勢を大切にしています。
Q11:最後に、研究者の方へのメッセージをお願いします。
ご自身が取り組まれている研究には、必ず何かしらの可能性があります。
その可能性を少し広げる場として、SEEDS LINK 関西を使ってもらえたらうれしいです。
研究のフェーズや、起業への関心の有無は問いません。
「この研究、外から見るとどう映るのだろう」「一度、研究室の外の人と話してみたい」
そんな気持ちがあれば、それだけで十分です。
私たちは、事業家になることだけをゴールにしているわけではありません。
先生方の技術や研究が、社会とどんな形でつながり得るのかを、一緒に考えていきたいと思っています。
人とつながり、会話をすることで、研究の見え方は変わります。
まずは関西から、そうした出会いや対話を増やし、日本の研究ポテンシャルを少しずつ外に開いていきたいと考えています。

大学見本市2025で見えた関西研究の可能性と、SEEDS LINKが果たす役割
2025年8月21日と22日の2日間、東京ビッグサイトにて、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が主催する、「大学見本市2025 イノベーション・ジャパン」が開催されました。
大学見本市は、全国の大学や公的研究機関等から創出された研究成果の社会還元、技術移転を促進すること、及び、実用化に向けた産学連携等のマッチング支援を実施することを目的とし、2004年から知財活用支援事業として開催されています。

今回、日本全国の大学等(*)機関から特許出願済みの技術シーズをJSTが公募・選考し出展する「大学等シーズ展示」は6分野、291件に及びました。それぞれのブースにて研究者自身が説明を行うため、参加者にとっては研究者から直接研究結果を聞く機会となります。
※大学等:大学、短期大学、高等専門学校、大学共同利用機関のこと
会場には、全国から選ばれた最新技術が並び、その中には関西圏の大学や研究機関からの出展も多数含まれていました。
私たち、関西圏の研究者のための社会実装ワンストップ窓口「SEEDS LINK OSAKA・KANSAI」のコーディネーターも現地を訪問しました。目的は、関西研究シーズの発掘や研究を事業化ならびに社会実装につなげるための可能性を把握することです。
こちらの記事では、大学見本市の現場で見えた関西研究の可能性と、研究の成果を最大化するための支援のあり方についてまとめます。
「SEEDS LINK」とは
大阪府が実施する「先端技術等に特化したスタートアップ育成支援事業(シーズ開拓)」として、研究成果を社会へ展開したい研究者に対し、丁寧なインタビューを行い、最適な専門家や支援メニューへの橋渡しを行うワンストップ型窓口です。
会場で感じた研究分野のポテンシャル
メインとなる「大学等シーズ展示」では、6分野291件の研究ブースが出展されており、構成比は現在の日本が直面する社会課題を色濃く反映していました。
最も大きな割合を占めていたのは、「カーボンニュートラル・環境」分野と「健康・医療」分野です。それぞれ96件もの展示が集まっており、2分野だけで展示全体の約66%を占めることになります。
関西には医療・バイオ分野の研究機関や企業が多数集積しており、環境・エネルギー技術においても世界市場をリードする製造業が多数存在しています。会場では、などが、想定される活用事例とともに研究結果を発表していました。
次いで多かったのが「AI・情報通信」(45件) 、「食料・農林水産」(28件) の分野です 。AI・情報通信技術は、それ単体での価値提供だけでなく、先の2大分野(環境・医療)のDXを加速させる「基盤技術」としても機能しており、多くのブースで横断的な活用が提案されていました。また、食料・農林水産分野は、健康や環境問題とも密接に関連する領域であり、持続可能性への関心の高まりを感じさせます。
さらに、「インフラ・防災・安全」(20件)や「船舶海洋・航空宇宙・極限領域」(6件)といった分野も、数は少ないながら国土強靭化やフロンティア開拓といった国の根幹を支える重要な研究として存在感を示していました。

全国の研究成果を俯瞰して見たことで、関西圏の研究機関は世界水準の「知」を生み出す力、すなわち「基礎研究の体力」に秀でていることが確認できました。大学見本市に出展された成果はすでに特許出願済みであるという事実からも、技術的な新規性と独創性の高さを伺い知ることができます。
一方で、「技術の種(シーズ)」を、持続可能な「事業の芽」へと育てるプロセスには課題が残されています。具体的には、発明された技術が「誰のどのような課題を解決するのか」という市場ニーズの特定や、それを収益に結びつけるビジネスモデルの構築といった「社会実装への道筋」です。
研究の社会実装化におけるギャップは、専門的な支援によって埋められるべき「伸びしろ」であり、関西のイノベーションにおける大きな可能性を示していると言えるでしょう。
私たちSEEDS LINKのコーディネーターは、研究者の素晴らしい技術をいかにして、社会が本当に求める事業へとつなげていくかが求められています。
コーディネーターインタビュー
今回、現地を視察したSEEDS LINKのコーディネーター2名に、現場で感じたことや関西の研究シーズが持つ可能性について聞きました。
▼コーディネーター チーフ|山本由香さん(以下:山本)

── 大学見本市に参加して、印象に残ったことを教えてください。
山本:「カーボンニュートラル・環境」分野の勢いを強く感じました。アプローチはさまざまですが、どのブースからも社会課題を解決したいという想いを肌で感じましたね。
また、「健康・医療」分野も非常に幅広く、難病治療や福祉機器など、まだ解決されていない課題に真摯に取り組む研究者の姿が印象的でした。文字情報だけでは分からない、それぞれの技術に込められた想いや温度感を直接体感できた良い機会となりました。
── 研究者の方々と対話する中で、強みや課題はどこにあると感じましたか?
山本:強みは、社会実装へ向けた研究者のみなさんの「覚悟と行動力」です。「自分の研究を社会に出したい」という強い意志を持ち、自ら起業を志して他のイベントでもピッチに立つなど、積極的に活動されている先生方の姿に感銘を受けました。
一方で、「研究は進んだものの、社会実装や事業化に向けて何をすればいいか分からない」という課題を持つ方もおられるんだと改めて気付かされました。
コーディネーターである私たちの役割は、研究者の方と一緒にその技術の価値を再定義し、最適な社会実装の形を探す「壁打ち相手」になることです。
私たちは技術の専門家ではありませんが、先生が「何をしたいのか」「何に困っているのか」を徹底的にヒアリングし、技術が持つ特性を具体的な市場ニーズや製品イメージへと翻訳することができます。一人では見つけられなかった技術の新たな価値や応用先を共に探すプロセスが非常に重要だと考えています。
── 今回の経験は、今後のコーディネート業務にどう活かされますか?
山本:SEEDS LINKの強みは、起業だけがゴールではない、と考えている点です。共同研究やライセンスアウトなど、先生が本当に望む社会実装の形を一緒に考える「オーダーメイドの支援」 を徹底することで、先生方の心理的なハードルを下げ、信頼される「最初の相談相手」になれるよう支援していきたいです。
▼コーディネーター|笠島陽子(以下:笠島)

── 大学見本市に参加した感想を教えてください。
笠島:現地で先生方から研究の背景や目指す方向性を直接伺うことで、それぞれのシーズに対する理解が大きく深まりました。パネルや資料だけでは、研究の本質や先生方の想いまでは伝わりきらない部分があります。直接対話をすることで、研究の意義や社会に与えるインパクトの可能性を肌で感じられることが、見本市の大きな価値だと思います。
ディープテックという言葉は一見難解に聞こえるかもしれませんが、実際に取り組まれている方々とお話しをすると、社会課題の解決や新たな産業の創出に直結する非常に現実的で身近なテーマであることを改めて感じました。
想像している以上に、研究の世界は泥臭く人情味あふれる世界です。
── 現場では、どのような点に注目してブースを回られましたか?
笠島:各ブースでじっくりお互いの話をするというより、後日改めて深くお話を聞くための機会に繋げる場だと考えていました。
私が注目したのは、チームとして動かれている点です。研究者は研究室という組織を率い、学生や研究員をマネジメントしています。その姿はまさに「企業の経営者」と同じだなと感じました。
一方で、研究者である先生方は研究以外にも多岐にわたる事務作業を担っておられます。産学連携部門のご担当者もまた、日々数多くの案件に対応されており、一つひとつのシーズに対して事業化まで深く伴走支援するリソースが圧倒的に不足している、という本音も伺いました。
その結果、「支援制度の全体像を把握しづらい」「共同研究先が見つかっても、研究費の区切りなどで継続が難しくなることがある 」といった声も伺いました。
── 現場でリアルな課題を聞いたことで、SEEDS LINKとしての取り組み方に変化はありましたか?
笠島:はい。改めてSEEDS LINKは、先生方のご負担を増やすのではなく、研究に専念いただける環境を整える「補完的な専門チーム」であるべきだと認識しました。同時に、産学連携部門のご担当者にとっても、限られたリソースの中で対応しきれない部分を補う存在となることが重要です。
具体的には、情報格差の解消、専門家(メンター等)との橋渡し、補助金申請や制度活用の有効なアドバイス、研究者と産学連携部門の双方に共通するニーズを的確に支援していくこと。その積み重ねが、研究成果をより円滑に社会実装へとつなげる推進力になると考えています。
私たちは先生方の想いに寄り添うと同時に、産学連携部門の方々の現場負担を軽減し、共に伴走することで、大学全体の研究成果が社会につながるプロセスを着実に支えていきたいと思います。
SEEDS LINKの役割とサポートの必要性
大学見本市に参加したことで、改めて関西には社会課題を解決しうる質の高い「技術の種(シーズ)」が豊富に存在していることに気付かされました。一方で、研究者や産学連携担当者との対話を通じて、その種を社会実装させたり事業化したりするためには課題があることも明らかになりました。
研究者は技術の専門家ですが、必ずしも市場の専門家や事業化の専門家ではありません。自身の研究が持つ可能性を信じながらも、「この技術の本当の価値はどこにあるのか」「誰がこれを求めているのか」「どう事業にすればよいか」といった問いに直面し、立ち止まってしまうケースは少なくありません。
私たちSEEDS LINKの役割は、研究者が抱える理想と現実のギャップを埋める「翻訳者」であり「伴走者」です。
研究者の技術の論理を、企業や市場が求める価値の論理へと翻訳し、両者をつなぐ架け橋となること。そして、大学の産学連携担当者が手が回りにくい一歩踏み込んだ事業化支援を、専門チームとして補完していくこと。それこそが、私たちSEEDS LINKが果たすべき役割です。
研究者の情熱と長年の努力の結晶である技術が、社会課題の解決という形で実を結ぶためには、適切な支援との接続が不可欠です。
だからこそSEEDS LINKは、研究者一人ひとりの想いに寄り添ったオーダーメイド型の支援を約束します。関西から生まれるイノベーションの可能性を最大化するために、私たちは、産学連携部門の方々とも連携し、これからも研究者の最も身近な相談相手であり続けます。